火星の性情

〈火星性情〉

『紫微斗数全書』巻二・安星起例と十二宮・原文と現代語訳

はじめに

この篇は『紫微斗数全書』巻二「諸星の性情」のうち火星の部分で、短い篇です。火星は南斗の浮星で、六煞星の一つです。

  • 性情の総論(第1〜4段):火星は性格が剛く強く、人に抜きん出ています。唇・歯・手足に傷があり、髪が人と違い、姿かたちが独特です。どの宮でもよくなく、廟旺の貪狼星と同宮するときだけ、たちまち辺境で手柄を立て、財官格になります。後に火貪格と呼ばれるものです。東南の生まれに利があり、西北には利がありません。擎羊星と同宮すれば、幼いころから災いが多く、孤独で剋し、養子に出るか里子に出るか、あらためて別の人を父母として拝むしかありません。女命の段は、原文の断定がとても重いものです。
  • 入限の歌訣二首:運限が得地の火星に巡れば、喜びが家に満ちます。火星はひねくれていて、何もなくても役所沙汰の騒ぎを起こします。

第4段の「寅午戌人宜,申子辰人陷……」は原文が「人」と書いているので、字面では生まれ年の十二支です。ただ、その分け方は巻三の火星の廟陥表(寅午戌が廟、申子辰が陥、巳酉丑が得地、亥卯未が利益)と同じなので、火星のある宮と読む人もいます。火星と鈴星をあわせて論じる歌訣は、次の篇〈鈴星の性情〉にあります。

1火星,南斗浮星。性剛強出眾,唇齒四肢有傷,毛髮有異,形容各別。諸宮不美,惟貪狼廟旺同度,指日立邊功,為財官格,

書き下し火星は、南斗の浮星。性剛強にして衆に出で、唇歯四肢に傷有り、毛髪異なる有り、形容各別。諸宮美ならず、惟貪狼の廟旺に同度すれば、日を指して辺功を立つ、財官格と為す。

現代語訳火星は南斗の浮星です。性格は剛く強く、人に抜きん出ています。唇・歯・手足に傷があり、髪が人と違い、姿かたちが独特です。どの宮でもよくありませんが、ただ廟旺の貪狼星と同宮すれば、たちまち辺境で手柄を立て、財官格になります。

浮星
全書が煞星や助星を呼ぶ言い方で、主星に対する語。
立邊功
辺境で戦功を立てること。
解説

この篇は短く、要点は一つだけです。「諸宮不美,惟貪狼廟旺同度」。火星は年支と時刻で置かれ、貪狼星とは決まった関係がないので、火貪の同宮は人それぞれの盤で見ることになります。後の時代には火貪格と呼ばれ、急に身を起こすことをつかさどります。〈火星の主るところは〉の歌は「若得貪狼會,旺地貴無倫,封侯居上將,勳業著邊庭」と言います(火星の主るところは)。「立邊功」は昔、辺境の戦で手柄を立てることでしたが、今なら新しい市場や新しい分野ですばやく成果を出すことと読めます。容貌の描写(唇・歯・手足の傷、髪の違い)は昔の形性の学の言い方なので、伝統的な背景として受け取れば十分です。

✎ メモ

2利東南生人不利西北生人,及喜寅卯巳午生人為禍較輕,更與擎羊同垣,則襁褓災厄,孤剋下局,只宜過房由外家寄養,或重拜父母方可。

書き下し東南の生人に利あり西北の生人に利あらず、及び寅卯巳午の生人を喜ぶ、禍を為すこと較軽し、更に擎羊と同垣すれば、襁褓に災厄あり、孤剋の下局、只過房して外家に由りて寄養し、或いは重ねて父母を拝して方に可なるに宜し。

現代語訳火星は東南の方角に生まれた人に利があり、西北の方角に生まれた人には利がありません。また寅・卯・巳・午の年に生まれた人を喜び、禍は比較的軽くなります。さらに擎羊星と同宮すれば、乳飲み子のころに災いがあり、孤独で剋し、下等の格局です。養子に出るか、母方の実家に預けられて育つか、あらためて別の人を父母として拝むか、そうしてはじめてよいのです。

襁褓
赤子をくるむ布。乳飲み子のころを指します。
過房
他家の養子になること。
外家
母の実家、母方の祖父母の家。
解説

方角の条件(東南に利あり、西北に利なし)は生まれた土地に関わるもので、星格の盤からは見えません。年支の条件の「寅卯巳午生人」の禍が軽いというのは、寅・卯が木、巳・午が火で、木は火を生み、火は火を助けるので、火星はこうした年には順調だと考えられたのです。後半の擎羊星との同宮は火と羊が同度する形で、刑と火が重なり、乳飲み子のころから災いがあります。〈火星の主るところは〉も「更與羊陀會,襁褓必災迍,過房出外養,二姓可延生」と言います(火星の主るところは)。養子や母方の実家に預けるのは、子どもを無事に育てるための昔の習わしで、今なら幼いころに祖父母や親戚に面倒を見てもらうことと読めます。

✎ メモ

3女命心毒內狠外虛狡詐,凌夫剋子,不守婦道,多是非,淫欲下賤。

書き下し女命は心毒にして内狠外虚狡詐、夫を凌ぎ子を剋し、婦道を守らず、是非多く、淫欲下賤。

現代語訳女命の火星は、心に毒があり、内心は冷酷で外見は虚ろ、ずる賢いです。夫をしのいで押さえつけ、子を剋し、婦道を守らず、もめごとが多く、淫らで卑しいです。

解説

女命の火星のこの段には条件が何もなく、すべて否定的な断定です。心に毒があり、ずる賢く、夫をしのぎ子を剋し、淫らで卑しい、と言います。全書が女命の煞星について書くものの中でも最も厳しい類で、原意はそのまま残しています。〈火星の主るところは〉の歌は条件を付けていて、「女人旺地潔,陷地主邪淫」と言います(火星の主るところは)。旺地なら清らかなのです。二か所を合わせて読むなら、条件付きのほうを採るのが筋で、火星が廟旺(寅・午・戌)にある女命には、この段を当てはめません。現代風に読むと、気が短く、率直で、ぶつかることを恐れないので、人間関係で衝突しやすい、ということです。

✎ メモ

4寅午戌人宜,申子辰人陷災吝困頓,巳酉丑人得地吉,亥卯未人利益,吉多發福。

書き下し寅午戌の人は宜し、申子辰の人は陥にして災吝困頓、巳酉丑の人は得地にして吉、亥卯未の人は利益、吉多ければ福を発す。

現代語訳寅・午・戌の年に生まれた人はよく、申・子・辰の年に生まれた人は落陥で、災いがあり、思うようにいかず行き詰まります。巳・酉・丑の年に生まれた人は得地で吉、亥・卯・未の年に生まれた人は利益で、吉星が多ければ福を得ます。

寅午戌人
字面では寅・午・戌の年に生まれた人。ただし分け方が巻三の火星の宮ごとの廟陥と同じなので、火星が寅・午・戌の宮に座ることと読む人もいます。
吝
悔い、思うようにいかないこと。
解説

注で触れたとおり、この四組の分け方は火星の宮ごとの廟陥とまったく同じです。星格の輝度も、寅・午・戌が廟、巳・酉・丑が得地、亥・卯・未が利益、申・子・辰が陥です。ですからこの段はもともと火星がどの組の宮に座るかを言っていて、のちに「某々の人」と書かれたのかもしれません。もう一つの可能性として、火星は年支から起こして数えるので(寅午戌の年は丑から、申子辰の年は寅から起こします)、年支は確かに火星の落ちる位置を左右し、昔の人が二つの言い方を混ぜて使ったとも考えられます。盤と照らすときは、星格が示す輝度に従うのがいちばん直接です。「吉多發福」は、火星そのものの輝度は出発点にすぎず、三方の吉星の多い少ないが結果を決める、ということを思い出させてくれます。

✎ メモ

火星入限吉凶訣:

6火星得地限宮逢,喜氣盈門百事通,仕宦逢之皆發福,常人得此財豐隆。

書き下し火星の得地に限宮逢えば、喜気門に盈ちて百事通ず、仕宦これに逢えば皆福を発し、常人此れを得れば財豊隆。

現代語訳運限の宮が得地の火星に逢えば、喜びが家に満ち、何事もうまく通ります。官に仕える人がこれに逢えばみな福を得て、普通の人がこれを得れば財が豊かに盛んになります。

限宮
大限や小限が巡ってきた宮。
解説

得地の火星が運限に入れば、喜びが家に満ち、何事も通り、官に仕える人は福を得て、普通の人は財が豊かになる、という首です。火星の得地と廟地は、寅・午・戌と巳・酉・丑です。火星のよさは「速さ」で、物事が速くやってきて、速く成ります。運限が得地の火星に巡れば、突然現れる好機をつかむのに向いています。星格で大限を見るときは、火星の位置は本命で決まっているので、それが大限の命宮か三方に落ちているかを見て、そのうえで盤上の輝度の小さな字を確かめます。

✎ メモ

7火星一宿最乖張,無事官災鬧一場,剋害六親應不免,破財艱苦免恓惶。

書き下し火星の一宿最も乖張、事無くして官災一場を鬧がす、六親を剋害すること応に免れざるべし、財を破り艱苦して恓惶を免る。

現代語訳火星という一つの星は最もひねくれていて、何事もないのに役所沙汰の災いをひと騒ぎ起こします。六親を剋し害することは免れないはずで、財を失い、苦労し、不安でうろたえます。

恓惶
おびえて落ち着かず、あわただしいさま。「免恓惶」は意味が通りにくく、誤字があると思われるので、ここでは文意に従って、不安を免れないと訳しています。
解説

この首は前の首と逆です。火星は「最乖張」で、何もなくても役所沙汰の騒ぎを起こし、六親を剋し、財を失って苦労します。「無事官災鬧一場」はよく言い当てた句で、火星のせっかちさは小さなことをよく大ごとにします。この首は輝度の条件を書いていませんが、前の首と並べて読めば、火星が得地でないか、煞星が多い場合のことでしょう。いまの暮らしでは、この時期いちばんの危険は気性で、口げんか、衝動買い、スピードの出しすぎがどれも火星の典型的な出来事です。行動する前にひと呼吸置けば、その大半は避けられます。

✎ メモ
底本原文(ウィキソース、一部簡体字)
火星,南斗浮星。性刚强出众,唇齿四肢有伤,毛发有异,形容各别。诸宫不美,惟贪狼庙旺同度,指日立边功,为财官格, 利东南生人不利西北生人,及喜寅卯巳午生人为祸较轻,更与擎羊同垣,则襁褓灾厄,孤克下局,只宜过房由外家寄养,或重拜父母方可。 女命心毒内狠外虚狡诈,凌夫克子,不守妇道,多是非,淫欲下贱。 寅午戌人宜,申子辰人陷灾吝困顿,巳酉丑人得地吉,亥卯未人利益,吉多发福。 火星入限吉凶诀: 火星得地限宫逢,喜气盈门百事通,仕宦逢之皆发福,常人得此财丰隆。 火星一宿最乖张,无事官灾闹一场,克害六亲应不免,破财艰苦免恓惶。

よくある質問

『紫微斗数全書』では、火星は何をつかさどりますか?

全書は、火星は南斗の浮星で、性格は剛く強く人に抜きん出ており、唇・歯・手足に傷があり、髪が人と違い、姿かたちが独特だとします。どの宮でもよくなく、廟旺の貪狼星と同宮するときだけ、たちまち辺境で手柄を立てることができ、財官格になるとします。

火貪格はどこから来た言葉ですか?

『紫微斗数全書』巻二の火星の篇に「諸宮不美,惟貪狼廟旺同度,指日立邊功,為財官格」とあります。火星が廟旺の貪狼星と同宮すれば、すぐに辺境で手柄を立てられる、という意味です。後の人は火星と貪狼星の同宮を火貪格、鈴星と貪狼星の同宮を鈴貪格と呼びました。

火星と擎羊星が同宮すると、全書は何と言っていますか?

原文は、火星が「更與擎羊同垣,則襁褓災厄,孤剋下局,只宜過房由外家寄養,或重拜父母方可」と言います。擎羊星と同宮すれば、乳飲み子のころから災いが多く、孤独で剋し、下等の格局で、養子に出るか母方の実家に預けられるか、あらためて義理の父母を持つしかない、という意味です。

「寅午戌人宜,申子辰人陷」は生まれ年のことですか、宮のことですか?

原文は「人」と書いているので、字面では寅・午・戌の年、申・子・辰の年に生まれた人のことです。けれどもその分け方(寅午戌がよく、申子辰が陥、巳酉丑が得地、亥卯未が利益)は、巻三の火星の宮ごとの廟陥とぴったり対応しているので、火星がこれらの宮にあることだとよく読まれます。星格の盤が示すのは、火星のある宮での輝度です。

この篇に出てくる主星

貪狼星
✎ 読み終えたら、星霊にひとこと感想を