火星の主るところは
〈問火星所主若何?〉
『紫微斗数全書』巻一・賦文・諸星問答と格局・原文と現代語訳
はじめに
この篇は巻一〈諸星問答論〉の火星の問い「問火星所主若何?」です。答曰は「火星乃南斗浮星也」の一句だけで、本文は希夷先生の五言の歌訣(第3〜7段)です。内容は順に次のとおりです。火星は「大殺將」で、身宮・命宮をつかさどれば気性が陰にこもって毒があり、剛く強く人に抜きん出て、毛髪が人と違い、唇や歯に傷があります。擎羊星・陀羅星と会えば赤ん坊のうちから災いがあり、養子に出して外で育ててはじめて命をつなげます。東南の生まれに利があり、西北の生まれには不利です。貪狼星と会って旺地にあれば「貴無倫」で、侯に封じられ上将になれます。三方に煞星や破れがなければ、中年以後にようやく興ります。僧道は漂い歩いて戒律を守りません。女性は旺地なら貞潔、陥地なら邪淫をつかさどり、夫を刑し子を剋します。
火貪という言い方はすでにここに出てきていて、後世は火貪格と呼びます。
1答曰:火星乃南斗浮星也。
書き下し答えて曰く、火星は乃ち南斗の浮星なり。
現代語訳答えて言います。火星は南斗の浮星です。
- 浮星
- 決まった役目を持たない星。主星に対して言います。
この問いへの答えは一句だけで、火星は南斗の浮星だと言います。実際の内容はすべて、あとの希夷先生の歌訣にあります。「浮星」は主星に対する言い方で、決まった役目がなく、働きはどの星と一緒にいるかで決まります。
火星は生まれ年の十二支と生まれた時刻で置かれるので、同じ年の同じ時刻に生まれた人は火星の位置が同じです。全書の〈諸星同垣〉は火星の廟陥を「火星廟寅午戌,地巳酉丑,陷申子辰」としていて(諸星同垣:火星・鈴星)、星格の盤の輝度もこれと一致します。寅・午・戌は廟、申・子・辰は落陥、巳・酉・丑は得地、亥・卯・未は利益です。
2希夷先生歌曰
書き下し希夷先生歌いて曰く。
現代語訳希夷先生の歌に言います。
この段は下の歌訣を導き出すだけで、それ自体の内容はありません。触れておきたいのは、火星・鈴星の二篇がどちらも「希夷先生歌曰」で一段まるごと済ませていることです。主星の篇に答曰・希夷・玉蟾の三つの説があるのとは違い、全書が煞星にかける筆が主星よりずっと少ないことがわかります。
下の歌訣を読むときは、〈火星の性情〉と照らし合わせるとよいでしょう(火星の性情を参照)。そちらには同じ内容の散文版があり、条件もかなり補われています。
3火星大殺將,南斗號殺神,若主身命位,諸宮不可臨,性氣亦沉毒,剛強出眾人,
書き下し火星は大殺将、南斗に殺神と号す。若し身命の位を主れば、諸宮臨むべからず。性気もまた沈毒、剛強にして衆人に出ず。
現代語訳火星は大殺将で、南斗では殺神と呼ばれます。身宮・命宮をつかさどるなら、どの宮にも臨むべきではありません。気性も陰にこもって毒があり、剛く強く、多くの人に抜きん出ています。
- 沉毒
- 陰にこもって、むごいこと。
「火星大殺將,南斗號殺神」は、火星の本質が殺だということです。七殺星と同じく将と呼ばれますが、七殺星は正曜、火星は浮星です。「若主身命位,諸宮不可臨」はかなり極端な言い方で、火星はどこに落ちてもよくないと言っているのに等しいです。
「性氣亦沉毒,剛強出眾人」は、火星の性格が剛く強く、せっかちで、「沉毒」は怒り出すとひどく激しいということです。いまの言葉で言えば、火星は瞬発力、行動の速さ、短気のエネルギーで、正しいところに使えば効率と押しの強さになり、使い方を誤れば衝動で人を傷つけることになります。
4毛髮多異類,唇齒有傷痕,更與羊陀會,襁褓必災迍,過房出外養,二姓可延生,
書き下し毛髪異類多く、唇歯に傷痕有り。更に羊陀と会すれば、襁褓必ず災迍あり。過房して外に出でて養い、二姓にて生を延ぶべし。
現代語訳毛髪が人と違うことが多く、唇や歯に傷痕があります。そのうえ擎羊星・陀羅星と会えば、赤ん坊のうちに必ず災難や行き詰まりがあります。養子に出して外で育て、別の姓の家に移ってはじめて命をつなげます。
- 襁褓
- 赤ん坊をくるむ布団。赤ん坊の時期を指します。
- 災迍
- 災難と行き詰まり。
- 過房
- よその家に養子に出すこと。
- 二姓可延生
- 別の姓の家で育ててはじめて命をつなげること。
「毛髮多異類,唇齒有傷痕」は火星の容貌の特徴で、〈火星の性情〉も「唇齒四肢有傷,毛髮有異」と言っています。「更與羊陀會,襁褓必災迍」は、火星が擎羊星・陀羅星と会えば赤ん坊のうちに災いが多いということです。
「過房出外養,二姓可延生」は陀羅星の篇の「二姓延生」と同じで、命の強すぎる子どもに対する昔の対処法です。養子に出す、よそに預ける、仮の親を立てる、といったことです。〈火星の性情〉は「只宜過房由外家寄養,或重拜父母方可」と言い、その条件を火星と擎羊星が同垣することとしています。いまの暮らしに置けば、子どものころ体が弱かった、あるいは育つ途中で祖父母や親戚に世話になった時期がある、と読めます。
5此星東南利,不利西北生,若得貪狼會,旺地貴無倫,封侯居上將,勳業著邊庭,
書き下し此の星東南に利あり、西北の生に利あらず。若し貪狼の会を得れば、旺地にて貴倫無し。侯に封ぜられ上将に居り、勲業辺庭に著る。
現代語訳この星は東南の生まれに有利で、西北の生まれには不利です。貪狼星と会い、旺地にあれば、比べるもののない貴さです。侯に封じられ、上将の位に就き、辺境で功業をあらわします。
- 勳業
- 功績と事業。
「此星東南利,不利西北生」について。火星は火に属し、東南は木と火に属して、木は火を生むので、同じ気どうしが助け合います。西北は金と水に属し、水は火を剋します。武曲星の篇の「喜西北生人,東南生人平常」とちょうど逆になっていますが、それは武曲星が金に属するからです。
「若得貪狼會,旺地貴無倫」が火貪格で、全書が火星を大きく褒めるただ一つの組み合わせです。〈斗数骨髄賦〉は「貪狼火星居廟旺名鎮諸邦」と言います。条件は旺地、つまり火星も貪狼星も廟旺の位置にあることです。火星の瞬発力に貪狼星の欲と手腕が加わり、昔なら武将が侯に封じられる格局でした。現代でいえば、急に頭角を現し、競争の激しい分野で名を上げることと読めます。
6三方無殺破,中年後始興,僧道多飄蕩,不守規戒心,女人旺地潔,陷地主邪淫,
書き下し三方殺破無ければ、中年の後始めて興る。僧道は多く飄蕩し、規戒の心を守らず。女人旺地なれば潔く、陥地なれば邪淫を主る。
現代語訳三方に煞星の沖破がなければ、中年以後になってはじめて興ります。出家して修行する人は漂い歩くことが多く、戒律を守る心がありません。女性は旺地なら貞潔で、陥地なら邪淫をつかさどり、
- 規戒
- 戒律。
「三方無殺破,中年後始興」は、火貪格には三方に煞星も破れもないことが必要で、しかも中年以後になってから発する、ということです。武貪の「不發少年郎」と似ていて、全書は爆発型の格局を中年に置くことがよくあります。
後半は僧道と女命です。僧道は漂い歩いて戒律を守らず、女性は旺地なら貞潔、陥地なら邪淫です。火星の性質は動と急なので、出家した人が遇っても清らかな規律を守りきれません。女命の貞と淫を輝度で分けるのは、旺地はよく陥地は悪いというもので、擎羊星の篇の女命の上局・下局と同じやり方です。
7刑夫又剋子,下賤勞碌人。
書き下し夫を刑し又子を剋す、下賤労碌の人。
現代語訳夫を刑し、さらに子を剋し、卑しく苦労の多い人です。
この句は前の段の女命の陥地を受けていて、夫を刑し子を剋し、卑しく苦労が多いと言います。〈火星の性情〉の女命の判断はもっと重く、「心毒內狠外虛狡詐,凌夫剋子,不守婦道」とあります。
これらは昔の女性に対する価値判断で、原文どおりに受けとめておきます。いまの目で火星が落陥する女命を読むなら、個性が強く短気で、家族との関係で衝突が起きやすく、暮らしが忙しくなりがち、というのが近いでしょう。それが当てはまるかどうかは命宮の主星と三方の吉星しだいで、火星はその中の一つの浮星にすぎません。
底本原文(ウィキソース、一部簡体字)
よくある質問
『紫微斗数全書』で火星は何をつかさどるとされていますか?
全書は、火星は南斗の浮星で、「大殺將」「殺神」だとしています。身宮・命宮をつかさどれば、気性が陰にこもって毒があり、剛く強く人に抜きん出て、毛髪が人と違うことが多く、唇や歯に傷痕があると言います。擎羊星・陀羅星と会えば赤ん坊のうちから災いがあり、養子に出して外で育て、別の姓の家で命をつなぐ必要があるとしています。
火星が貪狼星に遇うのはよい格局ですか?
歌訣は火星について「若得貪狼會,旺地貴無倫,封侯居上將,勳業著邊庭」と言います。火星と貪狼星が旺地で出会えば、比べるもののない貴さで、侯に封じられて上将となり、辺境で功を立てる、という意味です。後世はこれを火貪格と呼びます。
女命の火星について、全書はどう言っていますか?
歌訣は「女人旺地潔,陷地主邪淫,刑夫又剋子,下賤勞碌人」と言います。女命の火星は旺地なら貞潔で、陥地なら邪淫をつかさどり、夫を刑し子を剋し、卑しく苦労の多い人だという意味です。
この篇に出てくる主星