巨門星の主るところは
〈問巨門所主若何?〉
『紫微斗数全書』巻一・賦文・諸星問答と格局・原文と現代語訳
はじめに
この篇は巻一〈諸星問答論〉の巨門星の問い「問巨門所主若何?」です。巨門星は水と金に属し、北斗の第二星で、化気は暗です。全書は巨門星を「掌執是非」の星と定め、十四主星の中でいちばん否定的な評価を与えていて、結論は「孤獨之數,刻剝之神」です。全篇は次のように分かれます。
- 答曰(第1〜2段):巨門星の本質を述べ、続いて十二宮での結果を一気に並べます。身宮・命宮では口論を招き、兄弟宮では肉親が参商のように離れ、夫妻宮では生き別れ・死に別れ、子女宮では先に失って後に得て、官禄宮では刑杖を招き、田宅宮では祖業を食いつぶし、父母宮では見捨てられるとします。
- 希夷先生曰(第3〜5段):巨門星は面と向かってはよいことを言い陰では悪く言い、六親と打ち解けにくいとします。亥寅巳申では富貴でも長続きせず、太陽星に会えば吉凶半々、紫微星に遇えばその強さを制し、禄存星に遇えばその災厄を解き、擎羊・陀羅に当たれば男は盗人、女は娼妓とします。僧道や九流になってはじめて気苦労と行き詰まりを免れると言います。
篇全体の断定は原文どおりに直訳し、和らげていません。読むときは、「暗」は巨門星、「帝」は紫微星、「耗」は破軍星のことで、「徒配」「決配」は昔の徒刑と流刑だと知っておいてください。
1答曰:巨門屬水、金。北斗第二星也,為陰精之星,化氣為暗。
書き下し答えて曰く、巨門は水、金に属す。北斗第二星なり、陰精の星と為し、化気して暗と為す。
現代語訳答えて言います。巨門星は水に属し、金にも属し、北斗の第二星で、陰の精の星で、化気は「暗」です。
- 化氣為暗
- 巨門星の本性は「暗」に化します。そのため全書はよく「暗」で巨門星を指します。
巨門星の五行には二つの説があり、水に属するとも金に属するとも言います。全書のほかの箇所ではたいてい水に属するとしていますが、ここで金と水を並べているのは、巨門星の性質が水の暗さと、金の口の鋭さを兼ねているからです。「陰精之星」「化氣為暗」が巨門星のすべての断定の根っこです。暗とは、覆い隠すこと、はっきりしないこと、疑うことです。
巨門星を読むときに覚えておきたいのは、「暗」は悪いと同じではない、ということです。巨門星は弁舌、分析、とことん突き詰めることもつかさどり、これらはどれも「疑う」ことのよい面です。全書の巨門星の評価は否定寄りですが、〈斗数骨髄賦〉の「子午巨門石中隱玉」は巨門星の上格で(斗数骨髄賦を参照)、巨門星がふさわしい位置にあり、化禄・化権を得れば、暗さがかえって奥に秘めた価値になることを示しています。
2在身命一生招口舌之非;在兄弟則骨肉參商;在夫妻主於隔角,生離死別,縱夫妻有對,不免汙名失節;在子息損後方招,雖有而無;在財帛有爭競之意;在疾厄遇刑忌,眼目之災,殺臨主殘疾;在遷移則招是非;在奴僕則多怨逆;在官祿主招刑杖;在田宅則破蕩祖業;在福德其禍稍輕;在父母則遭棄擲。
書き下し身命に在れば一生口舌の非を招き、兄弟に在ればすなわち骨肉参商す。夫妻に在れば隔角を主り、生離死別し、縦い夫妻対有るも、汚名失節を免れず。子息に在れば損じて後方に招き、有りといえども無し。財帛に在れば争競の意有り。疾厄に在りて刑忌に遇えば、眼目の災、殺臨めば残疾を主る。遷移に在ればすなわち是非を招き、奴僕に在ればすなわち怨逆多し。官禄に在れば刑杖を招くを主り、田宅に在ればすなわち祖業を破蕩す。福徳に在れば其の禍稍軽く、父母に在ればすなわち棄擲に遭う。
現代語訳身宮・命宮にあれば、一生口論の揉め事を招きます。兄弟宮にあれば、肉親どうしが参星と商星のように決して顔を合わせません。夫妻宮にあれば、隔角の煞があり、生き別れ・死に別れがあります。たとえ夫婦がそろっていても、名を汚し節を失うことを免れません。子女宮にあれば、先に子を失ってから後に得て、いてもいないようなものです。財帛宮にあれば、奪い合い競い合うことがあります。疾厄宮にあって天刑・化忌に遇えば目の災いがあり、煞星が臨めば残疾があります。遷移宮にあれば揉め事を招き、奴僕宮にあれば恨みや背きが多くなります。官禄宮にあれば刑罰の杖打ちを招き、田宅宮にあれば祖業を食いつぶします。福徳宮にあれば禍はやや軽く、父母宮にあれば見捨てられます。
- 參商
- 参星と商星。一つは東、一つは西にあって同時には現れないので、肉親が不和で顔を合わせないことのたとえです。
- 隔角
- 昔の神煞の名で、肉親や夫婦が隔てられることをつかさどります。
- 損後方招
- 先に子を失い、その後でまた得ること。
- 棄擲
- 見捨てること、捨て去ること。
この段は巨門星が十二宮に落ちたときの結果を一つずつ並べていて、ほとんどの宮でよくありません。核心は口論と揉め事、そして隔たりです。兄弟は参商のように離れ、夫婦は生き別れ・死に別れ、子は失ってから得て、使用人は恨んで背き、父母には見捨てられます。巨門星の「暗」が六親に映ると、互いに相手が見えず、話が通じない、ということになります。
夫妻宮の「隔角」は昔の神煞で、星格の盤にはこの星はないので、条件は巨門星そのものを見れば足ります。「縱夫妻有對,不免汙名失節」はとても重い断定で、今なら、結婚生活で話し合いがうまくいかない、互いに疑い合う、あるいは外から陰口をたたかれる、と読めます。唯一ややましなのは福徳宮の「其禍稍輕」で、内面での巨門星の影響は考えすぎや気の回しすぎで、外の宮にあるときのように実際の衝突を起こすわけではありません。この段は巨門星のいわば初期設定で、続く二つの段では、太陽星・紫微星・禄存星に遇えば変わりうるとすぐに言っています。
3希夷先生曰:巨門在天,司品萬物。在數則掌執是非,主於暗昧,疑是多非,欺瞞天地,進退兩難。其性則面是背非,六親寡合,交人初善終惡。十二宮中若無廟樂照臨,到處為災,奔波勞碌。至亥寅巳申,雖富貴亦不耐久。
書き下し希夷先生曰く、巨門は天に在りては、万物を司品す。数に在りてはすなわち是非を掌執し、暗昧を主り、是を疑い非多く、天地を欺瞞し、進退両難なり。其の性はすなわち面是背非、六親寡合、人に交わるに初め善く終に悪し。十二宮中若し廟楽の照臨無ければ、到る処災と為し、奔波労碌す。亥寅巳申に至れば、富貴といえども久しきに耐えず。
現代語訳希夷先生は言います。巨門星は天にあっては、万物の品類を司ります。命数の中では是非を握り、暗く不明なことをつかさどり、疑い深く揉め事が多く、天地を欺き、進むも退くも難しいのです。その性質は、面と向かってはよいと言い陰では悪いと言い、六親と打ち解けにくく、人づきあいは初めはよくても最後は悪くなります。十二宮のうち、もし廟楽の地から照らし臨むものがなければ、どこへ行っても災いで、あちこち駆け回って苦労します。亥・寅・巳・申にあれば、富貴であっても長続きしません。
- 暗昧
- 暗くてはっきりしないこと。
- 面是背非
- 面と向かってはよいと言い、陰では悪く言うこと。
- 耐久
- 長く持ちこたえること。
希夷先生は巨門星の性格をとても鋭く書いています。「面是背非」「交人初善終惡」です。これは「暗」が人間関係に表れたもので、言葉に慎重で心の内を深く隠すので、周りの人は本心を見分けにくく、時間がたつと誤解が生まれる、ということです。
「至亥寅巳申,雖富貴亦不耐久」は、星格が使う廟旺表と一致しません。巨門星は寅・申で廟、巳・亥で旺で、四つの宮はどれも悪くありません。全書の歌訣と廟旺表のずれは天機星の篇にも出てきました。筋の通る理解は次のとおりです。四馬の地(寅申巳亥)は変動をつかさどるので、巨門星がここで富貴を得ても、口論や揉め事で変わりやすく、これは輝度の高い低いとは関係がない、ということです。巨門星と太陽星が寅・申で同宮する場合は別の評価になり、次の段に出てきます。
4會太陽則吉凶相半,逢七殺則主殺傷。貪耗同行,因好徒配。遇帝座則制其強。逢祿存則解其厄,值羊陀男盜女娼。對宮遇火鈴、白虎,無帝壓制,決配千里。三合殺湊,必遭火厄,此乃孤獨之數,刻剝之神。
書き下し太陽に会すればすなわち吉凶相半ばし、七殺に逢えばすなわち殺傷を主る。貪耗同行すれば、好みに因りて徒配せらる。帝座に遇えばすなわち其の強を制す。禄存に逢えばすなわち其の厄を解き、羊陀に値えば男は盗、女は娼。対宮火鈴、白虎に遇い、帝の圧制無ければ、決して千里に配せらる。三合に殺湊まれば、必ず火厄に遭う、此れすなわち孤独の数、刻剥の神なり。
現代語訳太陽星に会えば吉凶は半々で、七殺星に逢えば殺傷をつかさどります。貪狼星・破軍星と連れ立てば、道楽のために徒刑や流刑に処されます。紫微星に遇えば、その強さを制します。禄存星に逢えば、その災厄を解きます。擎羊星・陀羅星に当たれば、男は盗賊、女は娼妓になります。対宮で火星・鈴星・白虎に遇い、紫微星の押さえがなければ、必ず千里の彼方へ流されます。三合に煞星が寄り集まれば、必ず火の災いに遭います。これは孤独の命数で、薄情で人から奪う神です。
- 貪耗
- 貪狼星と破軍星(化気は耗)。
- 徒配
- 徒刑と流刑。
- 決配千里
- 判決により千里の彼方へ流されること。
- 刻剝
- 薄情で、人から搾り取ること。
- 逢七殺
- 通行の星の配置法では、巨門星と七殺星は同宮でも三方四正でも会わないので、この句には命盤の条件の印を付けていません。
この段は、さまざまな星が巨門星に及ぼす働きを並べています。「會太陽則吉凶相半」は、太陽星は巨門星の暗さを照らし破れますが、巨門星も太陽星の光を遮る、ということです。二つは寅・申で同宮し、これが巨日同宮で、寅が吉、申がそれに次ぎます。「逢祿存則解其厄」は、禄存星が安定した福なので、巨門星の揉め事を和らげられる、ということです。
いくつかの句は盤上でそろいません。星の配置法では、紫微星・七殺星・貪狼星・破軍星はどれも巨門星の三方四正に入りません。だから「遇帝座則制其強」「逢七殺則主殺傷」「貪耗同行」は、運限の盤の上で理解するか、性質の説明として読むしかありません。巨門星は強い星に遇えば押さえられ、煞星に遇えばいっそう激しくなる、ということです。実際に確かめられるのは太陽星・禄存星・擎羊陀羅・火星鈴星です。「值羊陀男盜女娼」は、原文どおりに理解すれば、条件は巨門星が擎羊星か陀羅星と同宮することです。〈巨門星の性情〉も、巨門星が命宮を守って擎羊星・火星・鈴星に遇えば「為人性急多顛倒」と言っています。
5除為僧道九流,方免勞神偃蹇,限逢凶曜災難不輕。
書き下し僧道九流と為るを除きて、方に労神偃蹇を免る、限凶曜に逢えば災難軽からず。
現代語訳出家人か九流の術士になるのでなければ、気苦労と行き詰まりを免れません。運限が凶星に逢えば、災難は軽くありません。
- 九流
- 医・卜・星・相など、さまざまな技芸。
- 偃蹇
- 行き詰まり、思うようにいかないこと。
締めくくりは、巨門星は「為僧道九流」でなければ気苦労と行き詰まりを免れない、と言います。九流は医・卜・星・相のような専門の技芸で、これは巨門星の弁舌・分析・研究の性格によく合っています。現代でいえば、法律・教育・相談・研究・メディアのような「口と頭を使う」仕事です。
「限逢凶曜災難不輕」は運限の上での注意です。巨門星が運限に入り、さらに煞星や化忌が加わると、口論や役所がらみの揉め事、契約のトラブルとして表れることが多いものです。篇全体を読むと、全書の巨門星の評価は全体に凶寄りですが、これは和を重んじ、言い争いを軽んじた昔の価値観です。今では、疑問を持ち、それを言葉にすることが求められる仕事も多く、それこそが巨門星の長所です。
よくある質問
『紫微斗数全書』で巨門星は何をつかさどるとされていますか?
全書は、巨門星は水と金に属し、北斗の第二星で、化気は暗だとしています。命数の中では是非を握り、暗く不明なことをつかさどり、疑い深く揉め事が多く、進むも退くも難しいとします。その人は面と向かってはよいことを言い陰では悪く言い、六親と打ち解けにくく、人づきあいは初めはよくても最後は悪くなるとし、「孤獨之數,刻剝之神」と言います。
巨門星は十二宮でそれぞれ何を表しますか?
答曰は一宮ずつ述べています。身宮・命宮では一生口論の揉め事を招き、兄弟宮では肉親が参商のように離れ、夫妻宮では生き別れ・死に別れ、名を汚し節を失い、子女宮では先に失って後に得て、財帛宮では争いがあり、疾厄宮で天刑・化忌に遇えば目の病、遷移宮では揉め事を招き、奴僕宮では恨みや背きが多く、官禄宮では刑杖を招き、田宅宮では祖業を食いつぶし、福徳宮では禍がやや軽く、父母宮では見捨てられます。
巨門星が擎羊星・陀羅星に遇うと、全書はどう言っていますか?
希夷先生は、巨門星は「值羊陀男盜女娼」と言います。巨門星が擎羊星・陀羅星に遇えば、男は盗賊、女は娼妓になる、という意味です。また、紫微星に遇えばその強さを制することができ、禄存星に遇えばその災厄を解くことができるとも言っています。
巨門星と太陽星が一緒にあるのはよいのですか?
この篇は、巨門星は「會太陽則吉凶相半」と言います。〈太陽星の主るところは〉の篇は太陽星の側から「所忌者,巨暗遭逢」と言っています。後の時代には、太陽星と巨門星が寅・申に同じくあるのを「巨日同宮」と呼ぶようになりました。
この篇に出てくる主星