諸星同垣:天馬と科権禄
〈論諸星同垣:天馬與科權祿〉
『紫微斗数全書』巻三・論命と行限・原文と現代語訳
はじめに
この篇は巻三〈諸星同垣〉のうち、天馬星と化科・化権・化禄の部分で、全部で十五行です。
天馬星の三句:禄馬はもっとも交馳を喜ぶが、煞星・擎羊星・火星・截路空亡を見ることを忌み、多くは苦労をつかさどる。天馬星が四生の宮で夫妻宮にあれば、富貴でしかも封贈を受ける。馬が空亡に遇えば、一生奔走する。
科権禄の十句は、三つの化の会合と落ち着く先を論じます。科権禄が合すれば「富貴雙全」、禄と権が命宮にあって吉に会えば「威權壓眾」、権禄が重なれば「財官雙美」、化科が命宮にあって化権が朝すれば「登庸甲第」、化禄が子・午の遷移宮にあれば「夫子文章冠世」、権禄が財帛宮・福徳宮を守れば「處世榮華」。反対の面もあります。権禄が重なっても煞星が集まればただの虚名、化科が落陥して凶神に会えば「苗而不秀」、化禄が弱い地にあれば発しても財をつかさどらず、権禄などの吉星が奴僕宮にあれば、たとえ官に就いても奔走します。
注の「巨武戍揚科」は意味がはっきりせず、「戍」は「戌」の誤りと思われますが、句全体をどう読むかは疑問のまま残しています。
1天馬
書き下し天馬。
現代語訳天馬星:
この節は天馬星を論じます。天馬星は生年の十二支で置かれ、寅午戌年は申、申子辰年は寅、巳酉丑年は亥、亥卯未年は巳に来ます。ですから天馬星は寅・申・巳・亥の四つの「四生」の宮にしか来ず、それは三合の局の長生の地の向かい側にあたります。天馬星は動をつかさどり、移動や奔走を表しますが、それ自体は吉とも凶とも決まっておらず、会うのが禄か空かで決まります。
2祿馬最喜交馳 忌見殺羊火截路空亡,多主勞苦。
書き下し禄馬は最も交馳を喜ぶ。〔殺・羊・火・截路・空亡を見るを忌む、多く労苦を主る。〕
現代語訳禄と天馬星は、交わって駆けるのをもっとも喜びます。(注)煞星・擎羊星・火星・截路空亡を見るのを忌み、多くは苦労をつかさどります。
3天馬四生妻宮富貴還當封贈
書き下し天馬四生にて妻宮なれば、富貴にして還た当に封贈せらるべし。
現代語訳天馬星が四生の宮にあり、夫妻宮に落ちれば、富貴で、しかも朝廷から封贈を受けます。
- 四生
- 寅・申・巳・亥。
- 封贈
- 朝廷が官僚本人とその妻・父母に与える称号。
天馬星は四生の宮にしか来ないので、「天馬四生」は実は天馬星そのもののことで、条件の要点は夫妻宮にあります。天馬星が夫妻宮にあれば、配偶者は富貴で、さらに封贈も受けられる、と言います。封贈は朝廷が官僚本人とその妻や父母に与える称号なので、この句は、配偶者が貴く、自分もそれに伴って名分を得る、という意味です。昔の人は夫妻宮の天馬星を、パートナーが有能で他の土地の背景を持つ、あるいは結婚後に移り住む、とよく読みました。
4馬遇空亡終身奔走
書き下し馬空亡に遇えば、終身奔走す。
現代語訳天馬星が空亡に会えば、一生奔走します。
元の句は〈太微賦〉の「馬遇空亡,終身奔走」で(太微賦)、格局では馬逢旬空にあたります。空亡には旬空と截空の二種類があり、〈談星要論〉は「天空截空最緊,旬空次之」と言います(談星要論)。馬が空亡に会えば、動いても得るものがなく、走り続けても空振りになる、ということです。星格の旬空は一つの宮だけに示し、截空は截路・空亡の二つの星に分けています。この違いは〈流年神煞・斗君・空亡の置き方〉の解説で説明しています(流年神煞・斗君・空亡の置き方)。
5科權祿
書き下し科権禄。
現代語訳化科・化権・化禄:
この節は化科・化権・化禄を論じます。三つとも生年の十干で決まり、同じ年の禄・権・科は三つの別々の星に割り当てられます。以下の句は、それらの会合と落ち着く先を論じます。命宮の三方で会えば吉、落陥の地にあったり凶神に会ったりすれば割り引かれ、財帛・福徳の位置なら栄華、奴僕宮なら奔走、というものです。盤の上では、生年の四化は化禄・化権・化科・化忌の印で区別して示されます。
6科權祿合富貴雙全 祿存亦是祿,祿會祿存,富貴全會。巨武戍揚科,會魁鉞在命宮極佳。三方次吉,亦在凶多則不美。
書き下し科権禄合すれば、富貴双全。〔禄存もまた是れ禄、禄禄存に会えば、富貴全く会す。巨武戍揚科、魁鉞に会いて命宮に在れば極めて佳し。三方は次吉、また凶多きに在ればすなわち美ならず。〕
現代語訳化科・化権・化禄が会合すれば、富と貴がそろいます。(注)禄存星も禄で、化禄が禄存星に会えば、富貴がすべてそろいます。「巨武戍揚科」(意味がはっきりしません)、天魁星・天鉞星に会って命宮にあればきわめてよいです。三方ならその次に吉で、やはり凶星が多ければよくありません。
校勘 注の「巨武戍揚科」の「戍」は「戌」の誤りと思われますが、句全体の意味ははっきりしません。
7祿權命逢合吉威權壓眾相王朝
書き下し禄権命に逢い吉に合えば、威権衆を圧し、王朝に相たり。
現代語訳化禄・化権が命宮にあり、吉星に会えば、威光と権力で多くの人を抑え、宰相となり王侯に封じられます。
〈女命骨髄賦〉に「祿權周勃命中逢,入相王朝贊聖功」があり(女命骨髄賦)、周勃を例にしています。禄は資源、権は支配で、二つが命宮にそろえば、お金もあり権力もある、ということです。いまの言葉なら、組織の中で資源と決定権を握る立場と読めます。
8權祿重逢財官雙美 三方吉多方吉,因聚也不美。
書き下し権禄重ねて逢えば、財官双美。〔三方吉多くして方に吉、聚まるに因るもまた美ならず。〕
現代語訳化権・化禄が重なって会えば、財運も官運もよいです。(注)三方に吉星が多くてはじめて吉です。ただ集まっているだけではよくありません。
これは権禄巡逢です。注は、三方に吉星が多くてはじめて吉で、ただ集まるだけではよくないと言います。裏を返せば、権禄には吉星の組み合わせが必要で、そうでなければ権禄が集まっても支えがなく、かえってねたみを招く、ということです。後の第11段は、権禄が重なって煞星に会う場合で、評語は虚名に変わります。二つの句は合わせて読む必要があります。
9科命權朝登庸甲第 或權或祿全更佳。為言祿逢迎格。
書き下し科は命に、権朝すれば、甲第に登庸せらる。〔或いは権或いは禄、全きは更に佳し。言いて禄逢迎格と為す。〕
現代語訳化科が命宮にあり、化権が来て朝すれば、科挙に上位で及第して登用されます。(注)化権か化禄のどちらか、すべてそろえばさらによいです。これを禄逢迎格と言います。
- 登庸甲第
- 科挙に上位で合格し、朝廷に登用されること。
化科が命宮にあり、化権が三方から朝してくれば、科挙に上位で及第して登用されます。注は権も禄もそろえばさらによく、これを「祿逢迎格」と呼ぶとしています。科は名声と試験を、権は実権をつかさどり、まず名があって次に権がある、というのが昔の読書人の、試験から官途へ進む道筋でした。いまなら、まず学歴や専門の評判を得て、それから決定権のある立場に入る、と読めます。
10化祿子午位遷移,夫子文章冠世 遷移在子午宮為對面朝天子 命太陽同化祿在午宮,合此格,餘宮要看吉凶科權祿來為貴格。如命安在子宮,祿在亥宮,權在丑宮,為夾貴。皆餘仿此。
書き下し化禄子午の位の遷移なれば、夫子の文章世に冠たり。〔遷移子午宮に在るを対面朝天子と為す。命の太陽同じく化禄して午宮に在れば此の格に合う。余宮は吉凶を看るを要し、科権禄来たるを貴格と為す。如し命を子宮に安んじ、禄亥宮に在り、権丑宮に在れば、夾貴と為す。皆余は此れに仿う。〕
現代語訳化禄が子・午の位置の遷移宮にあれば、孔子のように文章が世に冠たるものになります。(注)遷移宮が子・午の宮にあるのを「對面朝天子」と言います。命宮の太陽星が化禄して午の宮にあれば、この格に合います。ほかの宮では吉凶を見なければならず、化科・化権・化禄が来るのを貴格とします。たとえば命宮が子の宮にあり、化禄が亥の宮、化権が丑の宮にあれば、夾貴です。ほかもすべてこれにならいます。
- 夾貴
- 化禄・化権が命宮の両側に分かれてはさむこと。
化禄が子・午の位置の遷移宮にある形を、注は「對面朝天子」と呼びます。注が挙げる、太陽星が午で化禄になる形は庚年です。注の後半は「夾貴」の例を挙げていて、命宮が子、化禄が亥、化権が丑で、禄と権が両側からはさむ形です。これは羊陀夾や昌曲夾と同じ構造で、はさむのが吉の化だというだけです。「夫子文章冠世」は孔子を引いたたとえで、いまなら、文章や論述の力が抜きん出ている、と読めます。
11權祿重逢殺湊虛譽之隆
書き下し権禄重ねて逢い殺湊まれば、虚誉の隆。
現代語訳化権・化禄が重なって会っても、煞星が集まれば、名声は大きくても中身がありません。
〈諸星同垣:文昌星・文曲星〉も同じ「虛譽之隆」で、落陥の宮の昌曲が煞星に破られる形を言っています(諸星同垣:文昌星・文曲星)。権禄はもともと実のある資源ですが、煞星に破られれば、肩書きと名声だけが残って実利はない、ということです。現代に引き直すと、地位や知名度は大きくても、実際の資源や権限は限られている、と読めます。
12科名陷於凶神苗而不秀 如日戌,月卯,化科陷地,或又加羊陀劫空。
書き下し科名凶神に陥れば、苗にして秀でず。〔如し日戌、月卯、化科陥地、或いは又羊陀劫空を加う。〕
現代語訳化科が落陥して凶神に会えば、苗は育っても穂が出ないのと同じです。(注)たとえば太陽星が戌、太陰星が卯で、化科が落陥の地にあり、あるいはさらに擎羊星・陀羅星・地劫星・地空星が加わる場合です。
- 苗而不秀
- 苗は伸びても穂が出ず花も咲かない。才能があっても実を結ばないことのたとえ。
元の句は〈斗数骨髄賦〉の「苗而不秀科名陷於凶神」です(斗数骨髄賦)。注の例「日戌、月卯」には二つの問題があります。太陽星が戌なら太陰星は辰、太陰星が卯なら太陽星は亥で、二つが同時に起こることはありません。また太陽星は決して化科になりません(化科になるのは武曲星・紫微星・文昌星・天機星・右弼星・天梁星・太陰星・文曲星・天府星です)。ですからこの例は、太陰星が卯の落陥の地で化科になる形(庚年か癸年)と読むしかなく、戌の太陽星は光を失う別の例にすぎません。
13祿主纏於弱地發不主財
書き下し禄主弱地に纏えば、発すれども財を主らず。
現代語訳化禄が弱い地にあれば、発しても財をつかさどりません。
- 祿主
- 化禄。
- 弱地
- 落陥して力のない宮。
この句は〈斗数骨髄賦〉の同じ箇所の後半「發不主財祿主躔於弱地」です(斗数骨髄賦)。禄主は化禄、弱地は落陥して力のないところです。化禄が落陥の地にあれば、財が入る機会はあっても残らないか、発しても財という形にはならない、ということです。たとえば甲年は廉貞星が化禄で、廉貞星は巳・亥で落陥です。丁年は太陰星が化禄で、太陰星は卯・辰・巳で落陥です。盤では、化禄の付いた星の輝度が落陥かどうかを見ます。
14權祿守財福之位處世榮華
書き下し権禄財福の位を守れば、世に処して栄華。
現代語訳化権・化禄が財帛宮・福徳宮を守れば、世渡りが華やかです。
〈諸星同垣:劫空・傷使と命・身・財・宅〉にもほとんど同じ「權祿守財福之位出世榮華」があり(諸星同垣:劫空・傷使と命・身・財・宅)。違うのは「處世」と「出世」の一字だけです。財帛宮と福徳宮は向かい合う宮で、〈談星要論〉は「以福德宮對財帛宮也」と言います(談星要論)。ですから権禄がこの二つの宮にあれば、お金と楽しみが互いに照らし合う、ということです。
15權祿吉星奴僕位縱然官貴也奔波
書き下し権禄吉星奴僕の位なれば、縦然官貴なるも也た奔波。
現代語訳化権・化禄などの吉星が奴僕宮にあれば、たとえ官に就いて貴くなっても、奔走します。
元の句は〈太微賦〉の「祿居奴僕縱有官也奔馳」です(太微賦)。奴僕宮は昔は召使いの宮でしたが、いまは友人・同僚・部下の宮として読むことが多くなっています。権禄が奴僕宮にあれば、資源と権力がほかの人のところにあるので、自分は官位があっても人のために走り回る、ということです。いまの言葉なら、チームのために多く尽くして自分は疲れる、あるいは資源が人脈から来る、と読めます。
底本原文(ウィキソース、一部簡体字)
よくある質問
禄馬交馳とは何ですか?
禄(禄存星か化禄)と天馬星が会う形です。全書は「祿馬最喜交馳」と言いますが、煞星・擎羊星・火星・截路空亡を見ることを忌み、そうなれば多くは苦労するとしています。
化科・化権・化禄がすべて命宮の三方にあるのはよいのですか?
全書は「科權祿合富貴雙全」と言い、禄存星も禄に数えるとしています。天魁星・天鉞星に会って命宮にあればきわめてよく、三方ならその次に吉、凶星が多ければよくないとしています。
権禄が奴僕宮にあるのはよいのですか?
全書は「權祿吉星奴僕位縱然官貴也奔波」と言います。化権・化禄などの吉星が奴僕宮にあれば、たとえ官に就いても奔走して苦労する、という意味です。
天馬星が空亡に遇うとどうなりますか?
全書は「馬遇空亡終身奔走」と言います。天馬星が旬空・截空などの空亡の地にあれば、一生奔走して苦労するとしています。
この篇に出てくる主星